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トラともみの木


しんしんと雪が降る夜

雪の降り積もった山道を

一匹の真白いトラが歩いていました

ううん 寒いなぁ

こう寒くては ウサギもイタチもいないじゃないか

お腹減ったなぁ…

やがてトラは 歩くのをやめて座り込みました

ふぅ

雪がやむのを待つか

動くと腹が減る

虎は群をつくりません

ですから お腹が減っても自分でなんとかしなければなりません

今までも ずっとそうやって生きてきたのです

トラが座り込んでしばらくすると

たまたまトラの隣に生えていたもみの木が 話しかけてきました

おやおや

こんなところに座り込んで なにをやっているんだい?

トラは 話しかけてきた木の方をチラリと見やって 言いました

動くと腹が減るから 雪がやむまで動かずにいるんだ

すると木は言いました

お腹がすいているのか かわいそうに

ほら 私の皮を少しあげるから それをお食べ

しかし トラはそれをいらないと言いました

いつもひとりで生きてきたのです

自分のことは自分でなんとかするのが当たり前でした

でも お腹はすいていました

ほら そんなこと言わないで

さあ 食べておくれ

トラは 不思議に思いました

なんでオレなんかに優しくするんだ?

だいいち オレがあんたの皮を食べたら あんたは痛いじゃないか

オレを助けても あんたにはなにも得はない

痛いだけだ

なのに なんでわざわざ痛い思いをしてオレを助けるんだ?

すると もみの木は言いました

目の前に困っている者がいれば 助けるのが普通ではないかな?

トラは思いました

こいつは とんだ甘ちゃんだ

これまで 太陽と水さえあれば生きてこれたからか

だから こんな余裕こいて他人に手を差し伸べるんだな

今まで生きてきた世界が違いすぎて オレには理解できないな

暑い日も 雨の日も こんな雪の日ですら オレは野山を走り回ってエサをとらないと生きていけない

いつだって ひとりだ

エサがとれなかったら 死ぬだろう

そういう世界で生きている

オレは 目の前で困っている者がいても助けない

オレがそんな動物を見つけたら 食べるだけだ

トラは もみの木の申し出を強くことわりました

ほうっておいてくれ

すると もみの木は なんと自分で自分の皮をはがし トラに差し出しました

ほら 意地をはらないで

その様子だと うえ死にしてしまうよ

トラは ビックリしました

あんた 何やってんだ!?

痛くないのか?

もみの木は 言いました

この体が傷つく痛みよりも 目の前であなたがうえ死にするのを見る方が何倍も痛い

私の心には 消えない傷が残るだろう

トラは 理解に苦しみました

死ぬのを見るのが痛いとは どういうことだ?

オレには よくわからないな…

もみの木は 自分の皮をトラの前におきました

さあ 食べてくれ

トラは その皮を見ながら 少し考えました

これ 食べれるのか…?

トラは 木の皮を食べたことはありませんでした

トラは肉食動物です

植物を食べても 栄養にはなりません

おなかの足しにはならないのです

トラは少し考えて ちらりともみの木の心配そうな顔を見やり その木の皮を口に入れました

もぐもぐ

ごくん

もみの木の心配そうな顔は ぱっと明るくなりました

ああ よかった

トラは もみの木に ありがとよ とお礼を言いました

じゃあ そろそろ行くよ

そう言って トラは雪の降る山へ歩き出しました

お元気で

もみの木は別れの言葉を言い 2人は別れました

そのあと トラは雪山を歩き回りました

しかし エサとなる動物は見つかりませんでした

そうして トラの空腹は限界になり 動けなくなりました

もらった木の皮は やはりトラの栄養にはならなかったのです

トラは雪の中にうずくまり もう歩く元気はありません

頭もなんだかボンヤリして 意識も遠ざかっていきました

トラはうすれていく意識の中 少し考えごとをしていました

あのもみの木 今ごろなにをしているのかな?

元気にやっているだろうか?

また 他人のおせっかいをやいているんだろうか?

不思議なヤツだったなぁ…

どういう生き方をすれば ああいう風になれるんだろう…?

やがて トラは永遠の眠りにつきました

眠るように トラはその一生を終えたのです

真っ白なトラの体の上に雪が降り積もり トラの体は雪に溶けるように見えなくなりました

雪は その冬の間 ずっと降り続けました

やがて春がきました

雪は溶け トラの体は土にかえりました

そして そのトラの死んだ場所から 一本の木が生えてきました

もみの木でした

土にかえったトラの体を養分として 新たな命が芽吹いたのです

そして さらに時は流れ もみの木は立派な木に成長しました

しかし ある雪の降る夜 一匹の真っ白いトラがやってきて そのもみの木のふもとに座り込みました…
by biker-vet | 2008-02-11 00:34 | その他


falconer歴約10年。ハヤブサ・鷹などの猛禽類のfalconryトレーニング、病気・健康管理、野生動物(主に猛禽類)の治療やリハビリのことなど。STOOPERの猛禽用グローブ・フードも紹介しています。http://www.stooper.jp


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